基礎知識

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弁護士で不動産投資家の町田北斗です。
法律家の視点で「契約リスク」を回避し、投資家の視点で「優良物件」を見極めるスタイルが得意です。失敗しないための契約知識や、日々の投資実践録を綴ります。法律実務解説メディア[LL-GUIDE]

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弁護士として数多くの不動産トラブル相談を受け、また私自身も一人の不動産投資家として物件の売買を繰り返してきた経験から、**「不動産取引において、絶対に押さえておくべき基礎知識」**をまとめました。

不動産取引は、一生に数回あるかないかの大きな買い物であり、投資家にとっては事業の命運を分ける瞬間です。しかし、多くの人が「仲介業者が言うから大丈夫だろう」と、内容をよく理解せずにハンコを押してしまいます。

今回は、**法的なリスクヘッジ(弁護士の視点)**と、**実利の確保(大家の視点)**の両面から解説します。


【弁護士大家が解説】不動産取引の「落とし穴」を回避する基礎知識

1. 大前提:契約書は「トラブル時のルールブック」

日本の不動産取引では、契約自由の原則があります。極論を言えば、法律(強行法規)に反しない限り、契約書に書かれた内容が全てです。

「営業担当者が『この雨漏りは直します』と言っていた」としても、契約書に「現状有姿(そのままの状態)で引き渡す」と書いてあれば、法的には契約書の記載が優先される可能性が高いです。

弁護士の鉄則: 口約束は存在しないものと思え。すべての合意事項は書面に残すこと。

2. 「重要事項説明書(重説)」は物件の診断カルテ

契約の直前に、宅地建物取引士から説明を受ける「重要事項説明書(重説)」。これを単なる「読み合わせの儀式」だと思っていませんか?これは物件のリスク情報の宝庫です。

特に以下の3点は、投資価値を左右する重大項目です。

① 接道義務と再建築不可

建築基準法上の道路に、敷地が2メートル以上接していないと、原則として建物を建て替えられません(再建築不可)。

  • 投資家の視点: 再建築不可物件はローンが付きにくく、出口(売却)で苦労します。利回りが高くても、初心者は避けるべきです。

② 用途地域と建ぺい率・容積率

その土地に「どんな種類の建物を」「どれくらいの大きさで」建てられるかの制限です。

  • 投資家の視点: 将来アパートを建て替えようと思っても、今の建物と同じ規模が建てられない(既存不適格)場合があります。

③ インフラ(上下水道・ガス)

前面道路に配管があっても、それが「私設管」で他人の所有物だった場合、利用や掘削に高額な承諾料を請求されるトラブルが多発しています。


3. 売買契約書の2大急所:「ローン特約」と「契約不適合責任」

契約書の中で、私が最も目を光らせてチェックするのは以下の2点です。

① ローン特約(融資利用の特約)

銀行の融資審査が通らなかった場合に、**「白紙解約(ペナルティなしで契約を無効にする)」**できる条項です。

  • 落とし穴: 「金融機関名」「融資金額」「金利」「特約の期限」が具体的に書かれているか確認してください。「融資が否認された場合」ではなく「融資が減額された場合」も解除できるかどうかが、手出し資金を守る鍵になります。

② 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)

引き渡された物件が、契約の内容(種類、品質、数量)と適合しない場合に、売主が負う責任のことです。

  • 雨漏り、シロアリ、給排水管の故障などが代表例です。
  • 注意点: 売主が個人の場合、「契約不適合責任を免責する(責任を負わない)」という特約がつくことが一般的です。
  • 弁護士の視点: 免責物件を買うなら、そのリスク分(修繕費)を価格交渉材料にするか、購入前にインスペクション(建物状況調査)を入れるべきです。

4. 手付金の意味を理解する

契約時に支払う「手付金」。これは単なる前払い金ではありません。

  • 解約手付: 相手方が履行に着手するまでは、買主は「手付金を放棄」し、売主は「手付金を倍返し」することで、理由を問わず契約を解除できます。
  • 実務のポイント: 手付金が安すぎると売主から解除されやすく(より高く買う人が現れた場合など)、高すぎると自分が解除したい時に痛手が大きくなります。一般的には売買代金の5%〜10%が相場です。

5. 決済・引渡しの注意点

最後にお金のやり取り(決済)と鍵の引き渡しを行い、登記を移転します。ここでのトラブルは「残置物」です。

  • よくあるトラブル: 部屋に入ってみたら、前の所有者のゴミや家具が大量に残されていた。
  • 対策: 決済の前に必ず現地確認(立ち会い)を行い、物件が空になっているか、契約時の状態と変化がないかを確認してから、着金を実行します。

弁護士大家からのアドバイス

不動産取引において、仲介業者は「契約を成立させること」が仕事であり、あなたの味方とは限りません。

契約書にハンコを押す前に、以下の3つを自問してください。

  1. 最悪のシナリオ(融資否認、雨漏り発覚)への出口は確保されているか?
  2. 口頭で約束した条件は、すべて特約条項に記載されているか?
  3. その物件のリスク(法的制限)を理解した上で、価格に見合うと判断したか?

法的知識は、あなたの資産を守る最強の防具です。 疑問点があれば、署名前に必ず専門家に相談する勇気を持ってください。

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