不動産投資

h.machia

弁護士で不動産投資家の町田北斗です。
法律家の視点で「契約リスク」を回避し、投資家の視点で「優良物件」を見極めるスタイルが得意です。失敗しないための契約知識や、日々の投資実践録を綴ります。法律実務解説メディア[LL-GUIDE]

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承知いたしました。「弁護士大家 不動産実務ノート」、今回は**【応用編】**です。

前回は「物件を買う(取引)」際の防御策をお話ししましたが、今回は**「不動産投資という事業を成功させる」**ための基礎知識です。

不動産投資は「不労所得」とよく言われますが、これは大きな誤解です。実態は**「賃貸業」という泥臭いビジネス**であり、法務・税務・財務の知識が絡み合う総合格闘技です。

私の投資家としての経験と、弁護士としての法的視点を交え、「数字(利益)」と「法律(リスク)」の両輪から解説します。


【弁護士大家の投資論】「数字」と「法律」で勝つ不動産投資の基礎【応用編】

1. 利回りのマジックに騙されない:「表面」と「実質」

投資物件サイトを見ると、まず目に入るのが「利回り」です。しかし、この数字を鵜呑みにすると痛い目を見ます。

表面利回り(グロス)の罠

$$表面利回り = \frac{年間満室想定家賃}{物件価格} \times 100$$

これは単なる「期待値」です。「満室であればこれだけ入る」という皮算用に過ぎません。

実質利回り(NOI利回り)こそが真実

投資家が直視すべきは、経費を引いた手残りです。

$$実質利回り(NOI) = \frac{(年間家賃 – 空室損 – 運営経費)}{物件価格 + 購入諸経費} \times 100$$

弁護士大家の視点:運営経費(OpEx)を見落とすな

多くの初心者が、固定資産税・都市計画税、管理委託費までは計算に入れますが、以下のコストを見落としがちです。

  • 修繕費の積立: 外壁塗装や屋上防水は10〜15年に一度必ず来ます。
  • 広告宣伝費(AD): 客付け業者に支払う報酬(家賃の1〜2ヶ月分)。
  • 法的コスト: トラブル時の対応費用や、滞納保証会社の費用。

これらを厳しめに見積もってもキャッシュフローが出るか?これが最初の関門です。


2. 借金(レバレッジ)の法務と財務

不動産投資の最大の武器は「融資」です。他人資本を使って、自己資金の効率(CCR)を高めることができます。しかし、銀行との契約は「命綱」であると同時に「首輪」でもあります。

金銭消費貸借契約の「期限の利益喪失」条項

銀行と結ぶ契約書(金消契約)には、必ず**「期限の利益の喪失」**という条項があります。

これは、「約束を破ったら、分割払いをやめて、残金を直ちに一括返済しなさい」という条項です。

  • やってはいけないNG行為:
    • 銀行に無断で法人化して名義を変える。
    • 住居用ローン(フラット35など)で投資物件を買う(これは即刻一括返済を求められる重大な契約違反です)。

イールドギャップ(利回り差)を狙う

投資の成否は、以下の差で決まります。

$$イールドギャップ = 実質利回り(NOI) – 借入金利$$

目安として、ここが1.5%〜2.0%以上確保できていないと、空室が出た瞬間に手出し(持ち出し)が発生し、破綻リスクが高まります。


3. 日本の「借地借家法」は世界最強クラスの入居者保護

ここが弁護士として最も強調したいポイントです。

日本の法律(借地借家法)は、極端なほど「入居者(借主)」に有利に作られています。

「正当事由」がないと解約できない

一度入居してもらうと、大家の都合(建て替えたい、売りたいから出て行ってほしい)では、簡単に退去してもらえません。契約の更新を拒絶するには、高額な立退料が必要になるのが実務上の相場です。

滞納リスクと自力救済の禁止

家賃を払わない入居者がいても、勝手に鍵を変えたり、荷物を外に出したりすることは**「自力救済の禁止」**として違法となり、逆に大家が損害賠償請求されます。

弁護士大家の対策:

  • 家賃保証会社への加入を必須にする: 連帯保証人だけでは回収の手間がかかります。
  • 定期借家契約の活用: 「更新がない」契約形態です。不良入居者リスクを下げたい場合や、将来の建て替え・売却が決まっている場合に有効です。

4. 出口戦略(Exit Strategy)のない投資は「塩漬け」

「買って終わり」ではありません。「売って(または完済して)初めて利益が確定」します。

売却時の税金(譲渡所得税)の「5年ルール」

不動産を売って利益が出た場合、税率が所有期間によって倍半分違います。

  • 短期譲渡所得(所有5年以下): 税率 39.63%
  • 長期譲渡所得(所有5年超): 税率 20.315%

※「5年」の数え方は、売却した年の1月1日時点で判定されるため、実質的には6年近く保有する必要があります。

「積算価格」を意識する

銀行は融資をする際、物件の収益性だけでなく「資産価値(積算価格)」を見ます。

**積算価格が高い物件(土地値が高い物件など)**を買っておかないと、売却時に次の買い手がローンを組めず、高く売れない(出口が塞がる)リスクがあります。


5. まとめ:不動産投資家の3つの資質

成功している大家さんは、例外なく以下の3つの顔を持っています。

  1. 経営者としての顔: 収支(PL)と資産(BS)を常に管理する。
  2. 法務担当としての顔: 契約書と法律でリスクをコントロールする。
  3. サービス業としての顔: 入居者に「住空間」という商品を提供し、満足度を高める。

安易な「節税」や「不労所得」という甘い言葉に乗らず、堅実な事業計画を立ててください。

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