近年、店舗の集客目的でYouTubeなどの動画を無断で店頭モニターに流すケースが見受けられます。「お店の宣伝にもなるし、本人たちも喜ぶはず」という安易な考えは、法律上通用するのでしょうか?
今回は、人気YouTuberの動画をホストクラブの店頭で無断使用したことで、実際に賠償命令が下された最新の裁判例を科学します。
| 事件名 | 人気ユーチューバーの動画無断使用に関する損害賠償請求控訴事件 |
|---|---|
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
| 裁判年月日 | 令和7年8月28日 |
| 結果 | 破棄自判(242万円認容) |
事件の概要:ホストクラブでの無断放映トラブル

本件は、チャンネル登録者数84万人を超える人気YouTuberであるCと、そのマネジメント会社であるA社が、ホストクラブDを運営するB社を相手取って起こした損害賠償請求事件です。
事の発端は以下の通りです。
- YouTuberのCや別のYouTuberグループEが、ホストクラブDを体験し、感想を述べる動画(計2本)をYouTubeに投稿しました。
- ホストクラブDを運営するB社は、これらの動画を自店の店頭設置モニターで無断放映しました。
- これに対し、A社はパブリシティ権および著作権の侵害、Cは名誉毀損および著作者人格権の侵害を主張し、B社に対して損害賠償を求めました。
1審ではB社が欠席したため原告側の請求が全額認められましたが、B社がこれを不服として控訴したのが今回の裁判(控訴審)です。
【図解】事件の前提知識:誰が、何を、どうしたのか?
本件の登場人物と、トラブルの発端となった事実関係は以下のとおりです。
| 項目 | 事実関係の概要 |
| 当事者の関係 | C:チャンネル登録者数84万人を超える人気YouTuber。 A社:Cのタレント活動をマネジメントし、Cからパブリシティ権や著作権の譲渡を受けている会社。 B社:ホストクラブを運営している会社。 |
| 動画①の概要と使用 | 別のYouTuberのチャンネルに投稿された、CらがB社のホストクラブを体験し感想を述べる動画。 B社は、これを令和3年11月頃から自店の店頭モニターで無断で使用(放映)した。 |
| 動画②の概要と使用 | C自身のチャンネルに投稿された、B社のホストクラブを体験し感想を述べる動画。 B社は、これを令和4年8月頃から自店の店頭モニターで無断で使用(放映)した。 |
| 裁判の引き金 | A社およびCは、B社による店頭での無断放映が、Cの顧客吸引力を利用する「パブリシティ権侵害」や「著作権侵害」などにあたるとして、損害賠償を求める訴えを起こした。 |
原告(A社・C)の主張:B社への損害賠償の根拠
原告らは、B社の動画無断使用が以下の不法行為要件を満たすと主張し、損害賠償を求めました。
- パブリシティ権・著作権の侵害(A社の主張): 動画①の無断使用は、専らCの有する「顧客吸引力」の利用を目的とするものであり、パブリシティ権を侵害する。
また、動画②の無断使用は著作権侵害にあたり、それぞれ広告使用許諾料を基準とした損害が生じた。 - 名誉毀損・著作者人格権の侵害(Cの主張): 動画②の放映時、B社が勝手に「豪遊」等のテロップを付加した。
これにより、Cが過剰に金銭を支出し派手に遊ぶ印象を与えて社会的信用を低下させ(名誉毀損)、意図しない改変によって著作者人格権(同一性保持権等)を侵害した。
有名人の氏名や肖像(顔写真や映像等)が持つ、商品の販売等を促進する「顧客吸引力」を、排他的(独占的)に利用できる権利のことです。
例えば、人気YouTuberであるCの動画や顔を、店舗の広告として無断で使用するなど、「専ら顧客吸引力の利用を目的」として勝手に使う行為は、この権利の侵害として不法行為(違法)となります。
【図解】真っ向対立!YouTuber動画無断使用をめぐる原告と被告の主張
本件裁判において、動画を無断で使用されたとする原告(YouTuberであるCとそのマネジメント会社A社)と、無断使用ではないと反論する被告(ホストクラブ運営のB社)の主張は、以下の3つのポイントで激しく対立しました。
| 争点(テーマ) | 💥 原告(A社・C)の主張 | 🛡️ 被告(B社)の主張 |
| ① パブリシティ権侵害は成立するか? | 動画①は店舗の広告としての性質を持ち、B社が無断使用した行為は**「専らCの顧客吸引力の利用を目的」**としたものであり、A社が持つパブリシティ権の侵害にあたる。 | 動画①の使用は、Cら出演者の認知度を上げるため、または店舗の雰囲気を伝えるためのもの。放映も店舗前の通行人向けで短期間であり、営利的行為ではないためパブリシティ権侵害にはならない。 |
| ② 動画使用の「黙示の許諾」はあったか? | B社との間には動画使用に関する取り決めは一切ない。B社が証拠とする他の出演者の承諾も別の動画に関するものであり、本件動画の使用について黙示の許諾などない。 | Cは店舗で撮影し、高額な飲食をしたにもかかわらず代金を一切請求されていない。こうした商業的利用を想定した協力関係から、少なくとも動画使用の**「黙示の許諾」があった**というべきだ。 |
| ③ 損害は発生したか?(損害額) | A社:正規のタイアップ使用料(1クール300万円)を基準に、動画①と②で計600万円の損害が発生した。 C:勝手に「豪遊」等のテロップをつけられ社会的信用が低下し(名誉毀損・著作者人格権侵害)、100万円以上の損害が生じた。 | 損害発生の事実は客観的に立証されていない。動画の使用は短期間にとどまり、使用態様も軽微であるため、仮に違法だとしても賠償額は極めて限定的になるべきだ。 |
裁判所のジャッジメント:「飲食代タダ=動画使い放題」ではない
裁判所は、双方の主張を検討した結果、B社の責任を認めつつも、損害額については冷静な算定を行いました。
① パブリシティ権侵害の成立
裁判所は、登録者数84万人を超えるCには商品の販売等を促進する「顧客吸引力」があり、パブリシティ権が認められると判断しました。そして、B社が店頭モニターで動画を放映した行為は、この顧客吸引力を利用した営業促進目的であると認定し、パブリシティ権侵害を肯定しました。
② 「黙示の許諾」の否定
B社が主張した「高額な飲食代を請求しなかったのだから、暗黙の了解があった」という反論について、裁判所は「飲食代不請求の事実だけから、動画の利用まで黙示に許諾していたとは推認できない」として一蹴しました。
③ 最終的な損害額の算定
裁判所は、A社が主張する「1クール300万円」という金額はそのまま認めませんでした。動画がA社の意向に沿って制作されたものではなく「二次利用」に近いことや、実際の放映期間が不明であることを考慮し、以下のように損害額を算定しました。
- A社に対する損害: 動画2本分の無断使用として計200万円、弁護士費用20万円の合計220万円。
- Cに対する損害: モニター放映時に「【豪遊】」などのテロップを付加したことで社会的信用を一定程度低下させた(著作者人格権の侵害)と認定。ただし、元の動画タイトルにも同様の文字があったこと等を考慮し、慰謝料20万円、弁護士費用2万円の合計22万円。
結果として、裁判所はB社に対し、A社へ220万円、Cへ22万円の支払いを命じました。
お店側はどうすれば賠償を防げたのか?
お店側(B社)が今回のような巨額の賠償リスクを回避する鉄則は、たった一つ。「事前に明示的な証拠(書面やデータ)で利用許諾を得ること」です。
本件でB社は、「高額な飲食代をタダにしたのだから、動画使用の暗黙の了解(黙示の許諾)があったはずだ」と思い込んでいました。しかし裁判所は、飲食代を請求しなかった事実だけでは、動画の利用まで許諾していたとは推認できないと一蹴しています。
店舗側は、「飲食代を無料にする代わりに、店頭モニターで動画を使わせてほしい」と事前に交渉し、メールや同意書で「A社やCからの明確な同意の証拠」を残しておくべきでした。「タダにしたんだからお互い様」という甘い認識が、結果的に200万円以上の高い授業料に化けてしまったのです。
【実務コラム】コンテンツ利用の実践術
【クリエイターの権利】ただの動画じゃない!クリエイターを守る「3つ」
人気YouTuber(Cなど)が制作した動画は、法律上、極めて強力な権利の塊です。他人の動画を無断使用する企業(B社など)は、以下の3つの地雷を踏むことになります。
- パブリシティ権: クリエイター自身の顔や名前が持つ「集客力(顧客吸引力)」を勝手に商業利用されない権利です。
- 著作権: 汗水流して企画・編集した動画そのものを、無断で複製・上映(二次利用)されない財産的な権利です。
- 著作者人格権(同一性保持権など): 動画のタイトルを勝手に変えられたり、不本意なテロップ(「豪遊」など)を追加されて、社会的信用を傷つけられない権利です。
クリエイターの動画は「無料のフリー素材」ではありません。他人の努力の結晶にタダ乗りすれば、数百万円単位の損害賠償という重い代償を払うことになるのです。
【コンテンツ利用】「暗黙の了解」は命取り!契約の3つの鉄則
B社のように「タダにしたのだから」という暗黙の了解に頼ると、後で多額の賠償リスクを抱えます。事業者が他人のコンテンツを利用する際は、以下の3点を契約書(または合意メール)で明確に定義することが必須です。
- 利用範囲と期間の特定: 「店頭モニターのみ」「SNS配信のみ」「使用期間は6ヶ月」など、どこでいつまで使えるかを限定する。
- 対価の明確化: 今回のように「無償(飲食代との相殺)」とするのか「有償」なのか、金銭的条件を明記する。
- 改変(編集)の可否: B社のように勝手にテロップを追加したり、動画をカット編集したりすることを許容するか(著作者人格権の不行使)を定める。
「サービスしたから、口頭で同意を得ている」という思い込みを捨て、明確な書面を残すことこそが最強の自衛策です。


