ネット上の画像を拾ってきて、自分のサイトのレイアウトに合わせて丸く切り取る(トリミングする)。ブログやアフィリエイトサイトでよく見る光景ですが、実はこれ、「一発で数十万円の賠償金」に発展する極めて危険な行為です。
今回は、プロ写真家の画像を無断でアフィリエイトサイトに掲載し、勝手にトリミングした夫婦が、損害賠償を命じられた最新の裁判例を科学します。
| 事件名 | 著作権侵害及び著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求事件 |
|---|---|
| 裁判所 | 大阪地方裁判所 |
| 裁判年月日 | 令和8年3月17日 |
| 結果 | 一部認容 28万円 |
事件の全容
【事実関係の整理】アフィリエイトサイト無断転載・トリミング事件
プロ写真家である原告の人物写真2枚を、被告夫婦がアフィリエイト目的のサイトに無断掲載した事件です。被告らは許諾を得ず、氏名表示も行わずに約1〜3ヶ月間画像を公開しました。さらに、サイトのレイアウト仕様により写真の一部が切り取られる(トリミングされる)状態で表示され、写真家の社会的評価を損ねるおそれのある記事内容と併せて掲載されていました。
| 項目 | 具体的な事実関係 |
| 当事者 | 原告: アナウンサー等の人物写真を中心に活動するプロの写真家。 被告: アフィリエイトサイトのサーバー管理者(被告A・夫)とその妻(被告B)。 |
| 無断転載の事実 | 被告らは共同して、原告の許諾を得ず、また著作者の氏名も表示せずに、原告が撮影した写真2枚を自らのレンタルサーバーにアップロードした。 |
| 掲載時期・期間 | ・写真1:令和7年6月28日に投稿(約1か月間掲載)。 ・写真2:令和7年5月6日に投稿(約3か月間掲載)。 |
| 画像の改変 (トリミング) | ウェブページのレイアウト枠の仕様により、掲載された写真の一部が切り取られた状態(トリミングされたように見える状態)で表示されていた。 |
| サイトの性質 | 視聴数獲得(アフィリエイト収入)を意図したものであり、原告の写真家としての社会的評価を損ねるおそれのある言語表現と一体になった記事内容であった。 |
| 裁判前の経緯 | 原告は発信者情報開示を経て、被告らに解決金34万円での示談を申し入れた。被告らは投稿を削除し、10万円での解決を提案したが折り合いがつかず、裁判に発展した。 |
原告の主張(法的要件ごとの整理)
- 権利侵害行為(故意・過失): 被告らは故意または過失により無断で写真を掲載し、複製権・公衆送信権を侵害した。さらに、勝手なトリミングで「同一性保持権」を、無記名で「氏名表示権」を侵害した。
- 名誉を害する利用(みなし侵害): 有名顧客の写真を安価なアフィリエイトサイトに掲載し、原告が背信的な写真家であるかのような外観を作出した。
- 損害の発生と因果関係: 上記の悪質な行為により原告のブランド価値や職業上の信用が毀損された。通常の3倍の利用料(逸失利益)と高額な慰謝料を含む、合計約150万円の損害賠償を求める。
【図解】原告 vs 被告の主張対立まとめ
| 争点(もめたポイント) | 原告(無断転載されたプロ写真家)の主張 | 被告(アフィリエイトサイト運営者)の主張 |
| ① 勝手なトリミングと無記名 (同一性保持権・氏名表示権) | ・写真を無断で利用した挙句、円形に切り取るなど、ほぼ原型を留めない壊滅的なトリミングを行った。 ・氏名さえ表示しないなど、極めて悪質である。 | ・ウェブページのレイアウト枠内のみで画像として表示される仕様に過ぎず、画像の加工(改変)には当たらない。 ・著作者を認識できていなかったため名前を表示しなかった。 |
| ② 評判の低下 (名誉声望を害する利用) | ・有名顧客(アナウンサー等)の写真を、みだりに安価なアフィリエイトサイトに掲載された。 ・「顧客を裏切る背信的な写真家」という外観を作出され、信用と名誉を毀損された。 | ・過去に微々たるアフィリエイト収入はあったが、本件で収益を得た実態はない。 ・サイトが衆目を集めた事実もなく、原告の名誉声望が害される事態は生じていない。 |
| ③ 賠償金の額 (逸失利益・慰謝料) | ・ブランド価値を毀損する利用であり、通常の3倍の利用料(逸失利益)を請求する。 ・悪質な行為による精神的苦痛等の慰謝料を加算し、合計約150万円を支払え。 | ・3倍の利用料を要する根拠がなく、ウェブの1記事程度なら利用料の相場は1枚5000円程度である。 ・画像検索やSNSから拾っただけで、掲載期間も短いため、慰謝料は1万円程度が相当である。 |
著作者人格権とは、クリエイター(著作者)の「作品に対する思い入れ」や「名誉」を守るための強力な権利です。
作品でお金を稼ぐための「著作権(財産権)」は他人に譲渡できますが、著作者人格権は作者の心を守るものなので、絶対に他人に譲ることはできません。具体的には以下の3つがあります。
- 公表権: 未発表の作品をいつ、どう公開するか勝手に決められない権利。
- 氏名表示権: 作者名を表示するか、匿名にするかを自分で決める権利。
- 同一性保持権: 作品のタイトルや中身(構図や色合い含む)を勝手に改変されない権利。
特に「同一性保持権」は、ネット上の画像を勝手にトリミングしただけでも侵害となり、高額な慰謝料や刑事事件に直結するため、全発信者が最も警戒すべき権利です。
裁判所のジャッジメント
裁判所は、無断掲載(著作権侵害)に加え、サイトの仕様で画像が切り取られた点を「同一性保持権侵害」、名前の無表示を「氏名表示権侵害」と厳しく認定しました。
また、アフィリエイト目的での掲載は、原告の写真家としての「名誉声望を害する」と判断。「相場は5千円」という被告の反論を一蹴し、1枚4万円の損害額と慰謝料など、合計28万円の賠償を命じました。
「サイトの仕様です」は通用しない!同一性保持権の侵害
被告側は、「画像の一部が切り取られて見えるのは、ウェブページのレイアウト枠内のみに表示される仕様に過ぎず、画像の加工(改変)には当たらない」と反論しました。
しかし、裁判所はこの言い訳を一刀両断します。写真は写真家が被写体や構図を考慮して撮影した著作物であり、その構図を変更して表示する行為は、著作者の「同一性保持権(勝手に作品を改変されない権利)」を侵害すると認定しました。ウェブサイトのCSSやHTMLによる表示上の都合であろうと、勝手に作品の見え方を変えることは許されないのです。
安価なアフィリエイトサイトへの転載が「名誉」を傷つける
さらに裁判所は、無断掲載された場所が「視聴数獲得を意図したサイト」であり、原告の意に反する言語表現と一体になっていた点も重く見ました。
有名アナウンサーの肖像写真などをみだりに安価なアフィリエイトサイトに掲載するような行為は、写真家としての社会的評価を損ねるおそれがあり、原告の名誉や声望を害する方法での利用(著作者人格権侵害とみなされる行為)にあたると判断されたのです。これにより、本来の画像使用料とは別に、高額な慰謝料(2枚で合計18万円)が上乗せされました。
法改正の恐怖!「バレたら通常料金を払えばいい」はもう終わった
「無断転載がバレても、通常の写真利用料(数千円)を払えばいいんでしょ?」という考えは、もはや過去のものです。
裁判所は、著作権法114条3項の損害額算定において、法改正により「通常受けるべき金銭の額」から「通常」という文言が削除されたことを指摘しました。これは「バレた時だけ通常の料金を払えば良いという『侵害し得』」を防ぐための法改正です。
被告は「ウェブの1記事なら利用料の相場は1枚5000円程度だ」と主張しましたが、裁判所はこれを退け、様々な事情を考慮して1枚あたり4万円(相場の数倍)の損害額を認定しました。
なぜ「1枚4万円」の高額算定になったのか?
- プロ写真家による作品: 単なるスナップ写真ではなく、構図や被写体が考慮された「プロの写真家」によるクオリティの高い著作物であることが重視されました。
- アフィリエイト目的の悪質性: 被告が視聴数を稼ぎ、アフィリエイト収入を得るという営利目的で無断使用した侵害態様が考慮されました。
「ネットの画像を拾って、サイトに合わせてちょっと切り取る」。この何気ない行為が、著作権と著作者人格権のダブルパンチで数十万円の賠償に化ける時代です。情報発信者の皆様は、他人の著作物の取り扱いにはくれぐれもご注意ください。
実務コラム:著作者人格権侵害の慰謝料のリアルな金額
著作者人格権を侵害した場合の慰謝料金額について、実務上の相場感を対比させています。
| 侵害のレベル・態様 | 慰謝料の金額(実例・相場) | 裁判所の判断基準・具体例 |
| 【最新の実例】 トリミング + 無記名 + 評判低下 | 1枚あたり 8万円 〜 10万円 (※本件の事例) | 写真家が撮影した写真を無断でアフィリエイトサイトに掲載し、レイアウトに合わせて勝手に切り取り(トリミング)、名前も表示しなかった事例。写真家としての名誉を害する利用態様などの悪質性が考慮され、2枚合計で18万円の慰謝料が認定されました。 |
| 【軽度】 氏名表示権のみの侵害 | 数万円 〜 10万円程度 | 悪意なく他人の作品を転載し、作者名を表示し忘れたようなケース。作品の改変(同一性保持権侵害)や著作者の名誉毀損を伴わない場合、慰謝料は比較的低額に留まる傾向があります。 |
| 【重度】 大幅な改変 + 名誉毀損 | 数十万円 〜 100万円以上 | 作者の意図を完全に捻じ曲げるような悪質な改変(イラストの過度な加工や不適切な台詞の追加など)を行い、かつ作者の人格を激しく攻撃・嘲笑するような形で公開したケース。精神的苦痛が甚大であるとみなされ、慰謝料が高額化します。 |


