【SNSアイコン無断使用の結末】個人が企業から約88万円請求されるも賠償金は6.5万円のロジック

知的財産×裁判

本日は、SNS(Twitter、現X)のアイコンに他人の画像を無断使用したことで起きた、実際の裁判例を科学します。

事件名トリミングした商品写真をTwitter(X)のアイコン画像として使用したことによる著作権侵害損害賠償請求事件
裁判所東京地方裁判所
裁判年月日令和8年4月24日
結果一部認容 6万5000円
- YouTube
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事件の全容:無断使用の著作権侵害と賠償金

【事件の全容】 美容系企業(原告)が、自社商品の写真を無断でTwitterのアイコンに約3年強使用したアカウント運営者(被告)に対し、著作権侵害に基づく損害賠償として約88万円を請求した事案です。

【事実関係の整理】SNSアイコン無断使用事件

項目事実関係
原告化粧品、美容用品などの企画・販売を行う株式会社Be
被告X(旧Twitter)アカウントの運営者(投稿者)
対象の著作物(本件写真)原告がプロカメラマンに依頼して撮影・現像された自社商品の写真(令和元年7月19日現像)
著作権の帰属原告とカメラマンの間の撮影業務委託契約により、写真現像時(令和元年7月19日)にカメラマンから原告へ著作権が譲渡されていた
被告の行為原告の商品写真をトリミングし、自身のアカウントのアイコン画像として無断で掲載した
侵害期間令和4年7月13日から令和7年10月9日まで(約3年3ヶ月間)
原告の請求内容著作権(複製権および公衆送信権)侵害に基づく不法行為として、損害賠償金88万6674円および遅延損害金の支払い

著作権とは?

著作権とは、自分が作った作品(著作物)を無断で他人に使われないように守る権利です。文章、音楽、イラスト、写真など、作者の思想や感情が「創作的」に表現されたものが対象となります。

最大の特徴は、特許や商標とは異なり、役所に登録手続をしなくても「作品を作った瞬間に自動的に発生する」という点です。

他人の著作物を無断でパクり、ネットに公開するなどの行為は、民事上の損害賠償請求にとどまりません。悪質な場合は警察に逮捕され、「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」という極めて重い刑事罰が科される立派な犯罪(著作権法違反)になります。「たかが画像一枚」が前科につながる非常に強力な権利なのです。

原告と被告の主張対立

原告の主張(不法行為の要件別)

被告の使用行為は、原告の著作権を侵害しているから、次のとおり、賠償金を支払え。

  • 著作物性: 商品を立体的に美しく見せる光線や陰影の工夫が施されており、写真には明確な創作性が認められる。
  • 権利の帰属: 撮影前からの委託契約に基づき、写真が現像された時点(令和元年7月19日)で、カメラマンから原告へ著作権が譲渡された。
  • 侵害行為: 被告はSNSアイコンに写真を無断でトリミングして掲載し、原告の複製権および公衆送信権を侵害した。
  • 損害の発生と額: ブランド価値毀損を含む使用料相当額55万円、犯人特定費用約25.6万円、弁護士費用約8万円の、合計約88万円の損害が生じた。

原告と被告の主張

争点(もめたポイント)原告(写真の権利を主張する企業側)の主張被告(アイコンに無断使用した側)の主張
① 写真に「著作物性」はあるか?・光線や陰影の付け方によって極めて鮮明に商品を立体的に描き出している
・商品を流麗に映えさせる創意工夫がされており、創作性が認められる(=著作物である)
・単純な白背景で商品の正面を撮影しただけの写真である
・被写体を中央に正対させて平面的に配置しただけで、創作的な表現はない(=著作物ではない)
② 原告は「著作権」を持っているか?・カメラマンから著作権の譲渡を受けている
・契約書を交わす前から委託契約は存在しており、現像された時点で著作権は原告に譲渡された
・契約書が結ばれたのは、写真が現像された日よりも後である
・契約の効力が過去にさかのぼるとは定められておらず、原告に権利が譲渡されたとはいえない
③ 損害賠償の「金額」はいくらか?・ブランド価値を毀損する利用であり、使用料相当額として55万円が相当である
・被告を特定するための費用(発信者情報開示や弁護士会照会など)約25万円や弁護士費用を含め、合計約88万円を請求する
・商品は投稿の1年前に販売終了しており、ブランド価値の毀損などない(高額な使用料を争う姿勢)
・犯人特定にかかった費用や弁護士費用についても争う

裁判所のジャッジメント

著作権侵害は成立したのか?

裁判所は、原告の商品写真はプロカメラマンによって配置や陰影が調整されており、撮影者の個性が現れた「著作物」であると明確に認めました。被告はこれを無断でトリミングしてアイコンに設定したため、原告の著作権(複製権および公衆送信権)の侵害が成立しました

なぜ「88万円」の請求が「6.5万円」に減額されたのか?

原告は「ブランド価値を毀損された」として高額な使用料などを請求しましたが、裁判所は以下の現実的な計算で賠償額を算定しました。

  • 適正な使用料(5万円): 写真家ユニオンの使用料規程などを参考にしつつ、商品を正面から撮影した構図であり創作性が極めて高いとまでは言えないことなどを考慮し、約3年間の使用料は5万円が妥当とされました。
  • 犯人特定費用(1万円): 原告は発信者情報開示請求(犯人特定)に多額の費用をかけていましたが、他の複数アカウントも含めた手続であったことなどから、本件被告との因果関係が認められる特定費用は1万円に制限されました。
  • 弁護士費用(5000円): 弁護士費用は、損害の約1割である5000円のみ認定されました。

なぜ賠償額は「たった6.5万円」だったのか?

「88万円の請求に対し6.5万円は低すぎる」と感じるかもしれません。しかし、裁判所は感情ではなく客観的な事実で判断します。

最大の理由は、写真の「創作性の程度」です。プロの撮影とはいえ、商品を正面から撮ったシンプルな構図であったため、高額な使用料は認められませんでした。また、犯人特定費用も複数アカウント分をまとめて請求していたため、今回の被告の負担分は「1万円」に厳格に限定されています。

【図解】ここからが犯罪!著作権侵害の「セーフとアウトの境界線」

行為のテーマギリギリセーフ(合法・例外)完全アウト(著作権侵害!)🚔 刑事事件化(逮捕)のリスク
ネット画像の保存・共有個人のスマホに保存して、自分だけで楽しむ(私的使用のための複製)スマホに保存した画像を、SNSのアイコンにしたり、無断で投稿する(公衆送信権侵害)【中】原則は民事トラブルですが、悪質な海賊版サイトの運営や販売目的の場合は逮捕されます。
他人のコンテンツの「引用」自分の意見が「メイン」、他人の著作物が「サブ」であり、出所を明記している(引用)他人の著作物がメインになっており、ただの「丸パクリ」や「転載」状態になっている【低〜中】「引用のつもりだった」という言い訳が通じない悪質なコピペ動画や無断転載サイトは、刑事告発の対象になり得ます。
二次創作・パロディ権利者がガイドライン等で**「黙認・許可」**している範囲内で楽しむ権利者に無断で、既存のキャラクターを丸写し(トレース)してグッズ販売する【高】特に「海賊版グッズの販売」や「ネタバレ動画(ファスト映画など)」は、実際に多数の逮捕者が出ています。
アイデアの模倣「タイムトラベルものの恋愛」といった**「設定やアイデア」だけを参考**にして自分でゼロから作るストーリー展開、具体的なセリフ、キャラクターデザインといった**「表現そのもの」をパクる**【低】アイデア自体は著作権で保護されないため民事で争うことが多いですが、ソースコードや原稿の丸パクリは別です。
BGM・音楽の使用YouTubeが提供するオーディオライブラリや、フリー素材を規約の範囲内で使う好きなアーティストの市販CDの音源を、無断で動画のBGMとして流す【中】JASRAC等の管理楽曲を無断で継続的に違法配信した場合、刑事告訴に踏み切られる実例があります。

【実務コラム】逮捕のリスクも?知的財産権の全容をおさらい

「知的財産権」と聞くと大企業のビジネスの話に思えますが、実は個人の身近な発信活動が「犯罪」になるリスクを秘めています。主な権利は、大きく以下の5つに分類されます。

  • 特許権: 画期的な「発明」や高度な技術(アイデア)を守る権利。
  • 実用新案権: 物品の形状など、ちょっとした「小発明」を守る権利。
  • 意匠権: 独自性のある商品の「デザイン」を守る権利。
  • 商標権: サービス名やロゴなど、ブランドの「信用・マーク」を守る権利。
  • 著作権: 文章、音楽、写真など「創作的な表現」を守る権利。

【刑事事件化のリスク】 特許権から商標権までは「特許庁への登録」が必要ですが、著作権だけは「作品を作った瞬間」に自動で発生します。

特にSNSやYouTubeでの発信でトラブルになりやすいのが、商標権と著作権です。他人のブランドロゴの偽造や、アニメ画像などの無断転載は、民事上の高額な損害賠償請求にとどまりません。悪質な場合は警察の捜査が入り、最長で10年の懲役刑が科される「刑事事件」に発展します。「知らなかった」では済まされないのが、知財ルールの恐ろしいところです。

監修/執筆
弁護士町田北斗

弁護士 町田北斗(東京弁護士会所属):YouTubeチャンネル「刑事裁判を科学する」運営
日々法廷に立つ現役の弁護士。法律の専門家としての知見を活かし、難解な刑事手続きや民事との違い、裁判官の思考回路などを一般向けに分かりやすく解説する「教養エンタメ」コンテンツを発信中。読者・視聴者の知的好奇心を刺激し、法学の面白さを広めることをライフワークとしている。

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