【いじめ放置で市に賠償】小2いじめ訴訟で加害児童の親5組と市に約307万円の賠償命令。担任の「見て見ぬふり」は違法。

国家賠償×裁判

小学2年生(当時)の児童(原告)が、同級生5名から継続的ないじめを受け、約2年半の不登校や心身の不調(PTSDや血便、気絶など)に追い込まれたとして、加害児童の親権者5組と、小学校を設置・管理する市に対して損害賠償を求めた訴訟で、横浜地方裁判所は加害児童の親と市に対し、連帯して合計307万2,150円の支払いを命じる判決を下しました。

低学年(7〜8歳)の児童間における「遊び・ふざけ合い」と「不法行為(いじめ)」の法的な境界線はどこにあるのか、また、学級崩壊気味のクラスで担任がとった対応がなぜ国家賠償法上の責任を問われたのか。教育現場や保護者にとって極めて重要な教訓を含む判決の全貌を解説します。

事件名小学校2年生の児童に対する同級生らのいじめ及び教員の対応不備に伴う損害賠償請求事件
裁判所横浜地方裁判所 第9民事部
裁判年月日令和8年3月27日

1. 事件の概要:何が起きていたのか?

当事者と背景

  • 被害児童(原告子): 平成27年度に本件小学校の2年〇組に在籍。
  • 加害児童ら(子A〜子E): 原告と同じ2年〇組に在籍する同級生5名。
  • 被告ら: 加害児童らの親権者5組(民法714条の監督義務者)と、小学校を設置する自治体。

①:被害児童 →加害児童(A~E)の保護者に【民法714条監督者義務違反】で賠償請求。
②:被害児童 →〇〇市に【国賠法1条1項違反】で賠償請求

【時系列】事実関係一覧表

時期・日付発生した事実・出来事裁判所の認定・法的評価
平成27年4月・本件担任が小学校に赴任し、当該クラス(2年3組)の担任となる ・担任は前任校で学級経営に自信を失った状態でのスタートだった
夏休み明け〜後期・児童が担任の指示を聞かなくなり、授業中に席を立つなど学級崩壊気味になる
・補助員の配置や他の教員の見回り等が行われるが、休み時間の喧嘩等は続いた
・担任にとって対応が難しい児童が複数おり、クラス運営に困難を感じる状態が続いていた
11月〜12月前半原告子と加害児童らは親しい関係であり、お互いに叩き合ったり、四つん這いやうつ伏せの体の上に乗っかり合う遊びをしていた 。【違法性なし(遊びの範疇)】
・この頃までは互いにやり合う**「対等な関係」**であり、ふざけ合いの一環として社会通念上違法とはいえない 。
12月後半〜・教室や廊下において、加害児童らが集団で、原告子の上に乗る、叩く、蹴るなどの行為を繰り返すようになる 。
・原告子はやり返さなくなり、暗い表情で黙って耐えるようになった 。
子Aが馬乗りになり「お前は俺のおもちゃだ」と発言した 。
【違法ないじめ(共同不法行為)が成立】
・攻撃する側と反撃できない側という一方的な関係に変容。児童間のじゃれあいや遊びの範疇を超え、社会通念上違法である 。
・それぞれが周囲の状況を認識しつつ継続的・累積的に苦痛を与えたため、共同不法行為となる 。
平成28年1月頃子Aと子Eが、原告子の髪を引っ張る出来事が発生した 。・一方的な攻撃(いじめ行為)の一部として認定
平成28年2月・凧揚げの授業中、尿を漏らしてしまった原告に対し、子Aが前で転ばせ、子Aと子Bが上に乗り、子Bが原告子のズボンと下着をずらした(尻が一部見える程度)。・原告子に多大な精神的苦痛を与える悪質な加害行為であると認定
平成28年3月・原告子が「将来動物学者になりたい」という夢を持っていることを知った子Aが、原告子に対し「お前は動物学者になれない」と発言した ・言葉による違法な加害行為(いじめ)として認定
(上記期間中の
担任・学校の対応)
・担任はこれら一方的で度が過ぎる状況を何度も目撃し、その都度「やめなさい」と注意することはあったが、特に対応しないこともあった
・他の教員や管理職(校長・教頭)と情報を共有せず、原告の保護者や加害児童の親への連絡も一切行わなかった 。
【市の安全配慮義務違反が成立】
・担任はいじめの兆候を捉えて事実確認をし、的確な指導を行うべき職務上の注意義務(安全配慮義務)があったのにこれを怠り、いじめの継続を防止できなかった
平成28年3月19日・原告子が祖父母宅で突然泣き出し、学校でいじめられていることを家族に伝えた ・原告父母が初めていじめの事実を認識した瞬間である
平成28年3月20日・原告母から小学校へ連絡が入り、学校側がようやく児童らへの聞き取り調査を開始した ・(※担任は当初、隠蔽や保身から「一方的ないじめはなかった」と嘘の報告をしていた)
平成28年4月18日・原告子が3年生に進級後、学校へ行けなくなり不登校となる ・いじめを原因として長期の教育機会が失われる重大な損害が発生した
平成28年4月26日・クリニックを受診し、医師から「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断される ・(※裁判所は厳格な基準から法的なPTSD罹患は否定したが、血便、失神、悪夢など日常生活に支障をきたす重い心身症状の因果関係は認めた)
平成28年10月25日・原告父母が「いじめ重大事態調査組織(第三者委員会)」の設置を申し入れ、11月から調査が開始される ・いじめ防止対策推進法に基づく本格的な組織調査へと移行した
平成29年12月26日・復職した担任が、校内での振り返り調査を経て、自らの文責で報告書(甲A4号証)を作成した ・「具体的ないじめの事実を目撃していながら、見て見ぬふりをして対応しなかった」という当時の担任の認識が克明に記されており、裁判の決定的な証拠となった
平成30年12月10日・第三者委員会が追加の調査報告書を作成し、訴えの相当部分を法律上の「いじめ」として正式認定した ・学校や教育委員会の当初の調査の甘さが浮き彫りとなった
令和元年10月11日・原告側(被害児童および父親)が、加害児童の親5組と市を相手取り、損害賠償請求訴訟を提起した ・(※平成28年10月時点で損害の全体像が確定していなかったため、被告側の主張した「消滅時効」は成立しないと判断された)

【争点】原告と被告のそれぞれの主張

裁判では、「子ども同士のトラブル(遊び)か、違法ないじめか」「親の監督責任はどこまであるか」「担任は義務を怠ったのか」といった極めて重要な争点について、激しい弁論が交わされました。

【図解1】いじめの事実と親の責任(民法714条)をめぐる主張

民法714条に基づく監督義務者の損害賠償責任が成立するための主な要件

  1. 加害者の責任無能力: 加害者に法的責任を弁識する能力(12歳前後が目安)がないこと。
  2. 一般不法行為の具備: 責任能力以外の要件(違法性、損害、因果関係等)を満たすこと。
  3. 監督義務者の立場: 相手が親権者等の法定監督義務者や代理監督者であること。
  4. 免責の不証明: 監督義務を怠らなかったとの証明ができないこと。
争点(論点)原告側(被害児童・父母)の主張被告側(親権者5組)の主張裁判所の判断(最終ジャッジ)
1. 違法ないじめ行為
(共同不法行為)の成否
【執拗で一方的な違法行為だ】
・5名に全員で、又は入れ代わり立ち代わり、馬乗り、叩く・蹴る、ズボンや下着をずらす等の行為を繰り返し受けた。
・被害者の人格的利益を侵害する共同不法行為が成立する。
【不法行為の成立を争う】
・遊びやふざけ合いの一環であり、不法行為を構成するような違法ないじめではないと争う。
【平成27年12月後半以降は違法】
・12月前半までは「やり合う対等な遊び」としたが、12月後半以降は反撃できない**「一方的な攻撃」に変容**したと認定。5名全員の共同不法行為を認めた。
2. 親の監督義務違反
(民法714条)の有無
【しつけ・監督義務を怠った】
・親は他人の生命・身体に危害を加えないよう教育する広範な義務がある。学校内の行為であっても、基本規範に反する以上、親権者は賠償責任を負う。
【監督を尽くしており予見不能】
・日頃から通常のしつけ・監督は行っていた。
・学校から連絡を受けない限り学校での態度は知りようがなく、予見可能性がなかった。
【監督義務を尽くした証拠なし】
・身体的暴力を含むいじめを行った以上、親が「危害を加えないよう監督する義務を尽くした」という証明にはならず、親たち全員の賠償責任を認めた
3. その他
(謝罪による宥恕など)
【謝罪されても苦痛は消えない】
・家庭訪問等で謝罪を受けたとしても、長期間の不登校や重い精神的苦痛が消滅するわけではない。
【謝罪により違法性は消滅した】
・(被告Bの主張)親と子で自宅を訪問して謝罪し、受け入れられた。事後的に違法性や苦痛は消滅した。
・(被告Cの主張)追いかけた件は謝罪して宥恕された。
【謝罪による免責は認めない】
・謝罪したからといって損害賠償請求権を放棄する合意(宥恕)があったとは認められず、賠償義務は免れない。

【図解2】学校・市の責任(国家賠償法1条1項)をめぐる主張

国家賠償法1条1項に基づく国や自治体の損害賠償責任が成立するための要件

  1. 公務員性: 加害者が公権力の行使に当たる公務員であること。
  2. 職務関連性: 「その職務を行うについて」なされた行為であること。
  3. 故意・過失: 公務員に故意または過失があること。
  4. 違法性: 職務上の注意義務違反など、行為が違法であること。
  5. 損害と因果関係: 違法行為と他人の損害に因果関係があること。
争点(論点)原告側(被害児童・父母)の主張被告側(茅ヶ崎市)の主張裁判所の判断(最終ジャッジ)
1. 担任の対応
(安全配慮義務違反)
【見て見ぬふりをして放置した】
・担任はいじめを認識しつつ「遊びの延長」と思い込み、見て見ぬふりをした。「やめなさい」と言うだけで事実確認や指導、保護者・管理職への連絡を怠った。
【一部不手際を認めるも争う】
・関係が崩れ一方的になっていると思い始めたため、管理職と情報共有して組織対応すべきだったのに何もしなかった過失は認める。
・その余の違法性は争う。
【明確な注意義務違反・違法】
・担任は不法行為と評価される状況の相当部分を目撃していたのに、他児の対応に追われ指導や報告・連絡を怠った。いじめ継続を止められなかった過失(違法)を認定
2. 担任の虚偽報告と
誠実義務違反
【隠蔽目的で嘘をつき記録を廃棄】
・いじめ発覚後、保身から「いじめはなかった」と嘘をつき、教務必携(記録)を廃棄した。安全配慮義務違反のみならず、あえて隠蔽した誠実義務違反だ。
【不適切だが別の違法ではない】
・発覚後に虚偽報告をしたことは不適切で否定しないが、安全配慮義務とは別の独立した違法行為(誠実義務違反)とまではいえない。
【独立した違法とはいえない】
・復職後に認識を改めたこと等から、故意の隠蔽とまでは認められず、「いじめ防止の義務違反とは別個の独立した違法行為とまではいえない」とした(※結果として市の賠償責任自体は成立)。

【図解3】被害・損害をめぐる主張(賠償すべき金額の算定)

争点(論点)原告側(被害児童・父母)の主張被告側(親権者ら・茅ヶ崎市)の主張裁判所の判断(最終ジャッジ)
1. PTSD等の発症と
因果関係
【複雑性PTSDなどに罹患した】
・いじめにより気絶や血便、失神、極度の不安に陥り、PTSD(又は複雑性PTSD)と診断された。長期の心理療法(EMDR等)を余儀なくされた。
【PTSDの基準を満たさない】
・国際的な診断基準(生命の危機や破局的な災害・暴力など)に照らし、小学校のいじめは基準を満たさず、PTSDには罹患していない。
【PTSD基準は否定も重い損害認定】
・厳格な医学基準としてのPTSD罹患は否定。しかし**「約2年半の不登校と、気絶・血便等の重い症状が現れ、日常生活に多大な支障が生じたことと、いじめとの因果関係」を全面肯定**した。
2. 過失相殺
(親が気付かなかった点)
【親に過失など一切ない】
・学校から何の連絡もなく、家庭でいじめを把握することは困難であった。
【被害者側にも5割の過失がある】
・(被告Dの主張)親は子の様子からいじめに気付いて拡大を防げたはずなのに、3月まで気付かなかった。5割の過失相殺をすべきだ。
【過失相殺はゼロ(親に過失なし)】
・学校から情報提供もない状況下で、親がいじめに気付かなかったことを過失と評価すべき事情はなく、過失相殺は認めない
3. 消滅時効の成否
(提訴時期の争い)
【時効は完成していない】
・損害は継続・拡大しており、3年前の時点では全体像を確定的に把握することは不可能であった。
【3年の消滅時効が完成している】
・平成28年5月頃には被害内容や加害者が整理され請求可能だった。提訴(令和元年10月)は3年を過ぎており時効だ。
【時効は未完成(原告の勝利)】
・3年前の時点(平成28年10月)では子の精神症状は軽快しておらず治療継続が必要な状態であり、「請求可能な程度に損害を知ったとはいえない」と退けた。

裁判所の判断:責任は誰に、どうあるのか?

① 加害児童の行為は「共同不法行為」

小学2年生という低学年であっても、相手が抵抗できない状況で暴力や侮辱を継続したことは、「遊びの範疇を超えた社会通念上違法な行為」と認定されました。常に5人全員が一緒にいたわけではないものの、教室や廊下で相互に認識し得る状況下で累積的に損害を与えたとして、5名全員の「共同不法行為」が成立すると判断されました。

② 加害児童の親権者の責任(民法714条)

小学2年生(7〜8歳)の児童には、法律上の「責任能力(自分の行為の法的責任を弁識する能力)」がありません。そのため、民法714条に基づき、法定の監督義務者である親権者(被告ら)が損害賠償責任を負うことになります。 親側は「日頃からしつけをしていた」「学校から連絡がなかったので予見できなかった」と抗弁しましたが、裁判所は「他人に身体的暴力を含むいじめを行わないよう監督すべき義務を尽くしていたとの証明にはならない」として、親たちの責任を厳しく認めました。

③ 小学校(市)の責任(国家賠償法1条1項)

本件クラスは指導上の課題を抱え、授業中も騒然とするなど「学級経営に困難を感じる状態」にありました。 担任教諭は、原告が一方的に攻撃されている状況を頻繁に目撃し、「遊びとしてはやや一方的で少し度が過ぎている」と気付いていました。しかし、他の困難な児童の対応に追われていたこともあり、「いじめ」と認識せず、十分な制止や管理職への報告、保護者への連絡を怠りました(見て見ぬふり)

裁判所は、客観的に不法行為と評価される状況を目撃していながら、事実確認や組織的対応を怠った担任の行為を「職務上の注意義務(安全配慮義務)違反」と認定し、市に対して賠償責任を命じました。 (※なお、担任が休職・復職後に自身の対応を振り返り、「自分がいじめを見て見ぬふりをしていた」と正直に認めた校内報告書(甲A4号証)の存在が、事実認定の重要な決め手となりました。)

「PTSD」の診断書は否定、それでも重い損害を認定

本件の法的な議論の注目点として、被害児の精神障害(PTSD/複雑性PTSD)の認否があります。 裁判所は、国際的な診断基準(ICD-10/11やDSM-5)が「生命の危険や破局的な脅威」を要件としていることから、法的な医学診断としての「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」のり患自体は認めませんでした。

しかし、「形式的にPTSDの基準を満たさないとしても、いじめを原因として約2年半不登校になり、気絶や血便を伴う極めて重い心身の不調が現れ、日常生活に多大な支障をきたした」という事実関係を重視。被害の実態に即した、以下のような実質的な損害額を認めました。

認容された賠償額の内訳(合計 3,072,150円)

  • 被害児童(原告子)への賠償: 275万円
    • 慰謝料: 250万円(長期間の教育機会の喪失や重い心身症状を考慮)
    • 弁護士費用: 25万円
  • 父親(原告父)への賠償: 32万2,150円
    • 治療費・カウンセリング費: 31万6,150円(臨床心理士の面接費なども因果関係を肯定)
    • 通院交通費: 2万円(自宅近隣へ通ったと仮定した相当額)
    • 弁護士費用: 2万9,000円
    • ※上記から日本スポーツ振興センターの給付金(4万3,000円)を損益相殺。

(※母親の固有の慰謝料・治療費や、遠方治療のための車購入費、私立小学校への転校費用、弟たちの転校費用などは、いじめとの相当因果関係や特別損害としての予見可能性が否定され、請求は棄却されました。)

4. この判決が示す実務上の教訓

この判決は、教育現場や保護者に以下の重大なメッセージを投げかけています。

① 「低学年だから」「遊びの延長だから」は通用しない

小学2年生という幼い年齢であっても、力の均衡が崩れ、一方的な痛みを伴う行為になれば、それは違法な「いじめ(不法行為)」です。加害児童に悪気がなく「遊びのつもり」であったとしても、損害賠償責任(親の管理責任)は免れません。

② 担任の一人抱え込みと「見て見ぬふり」の法的リスク

学級が荒れていたり、他に手がかかる児童がいたりすると、教員はつい「トラブル」を過小評価しがちです。しかし、「度が過ぎている」と気付いた時点で事実を調べ、管理職や保護者と情報共有をしなかったことは、明確に自治体の「違法行為」とみなされます。学校現場における早期の組織的対応の重要性が、法廷の場でも改めて示されました。

現代の学校社会において、いじめやトラブルはどの家庭にも起こり得る身近なリスクです。では、私たち保護者は、愛する我が子を「傷つけられる被害者」にさせず、同時に他人の権利を奪って巨額の賠償責任を負う「加害者(および監督責任者)」にもさせないために、何ができるのか。法的な実務視点に基づく実践対策マニュアルを表にまとめました。

実務コラム

「被害者・加害者」にならないための実務対策マニュアル

民事訴訟の現場で数多くのケースを見てきたプロの視点から、「日常の予防策(平時)」「トラブル感知時の実務対応(有事)」に分けて整理しました。

立場・目的日常の予防・教育策(平時の備え)異変・トラブル感知時の実務対応(初動・拡大防止策)法的・実務上の注意点(絶対に避けるべきNG行動)
1. 加害者(および賠償責任者)に
ならないために
(※民法714条の監督義務)
【「遊びと違法」の境界線を教える】
・「いじり」や「じゃれ合い」であっても、相手が嫌がったり、反撃できない状態になった時点で「違法な暴力・不法行為」になることを平時から明確に伝える。
・スマホやSNS、オンラインゲームのチャットの利用ルールを決め、定期的に親が確認する(※ネットいじめは文字や画像の「証拠」が残りやすいためです)。
【事実を正視し、早期に是正する】
・学校から連絡があった際、頭ごなしに否定せず、子どもから冷静に事実関係を聴取する。
・加害の事実があれば、ただちに行為を止めさせ、学校と連携して早期に真摯な謝罪を行う(※早期の解決が、紛争の長期化と賠償額の増大を防ぎます)。
【「うちの子に限って」「ただの遊び」と根拠なく否認する】
・前回の判例のように、「学校でのことだから知らなかった」という言い訳は法廷で一切通用しません。親が事実を認めず放置する態度は、裁判で「監督義務を全く果たしていない」とみなされ、心証を極端に悪化させます。
2. 被害者(および被害の拡大)に
ならないために
(※学校・自治体との連携)
【初期サインを見逃さない観察】
・持ち物の紛失や破損、不自然な傷や汚れ、朝の「お腹が痛い」「頭が痛い」といった体調不良は、いじめ被害の初期SOSであることが極めて多いです。
・**「何があっても親はあなたを守る」**と伝え、子どもが「親に言うと心配をかける・怒られる」と躊躇しない心理的安全性を家庭内に作る。
【客観的な「証拠」を記録・保全する】
・子どもからの相談内容や出来事を、「いつ・どこで・誰に・何をされたか」、時系列のメモや日記に詳細に記録する。
・身体の傷や破られた持ち物は写真や現物で保存し、心身の不調があれば早めに病院(小児科・心療内科など)を受診して**「診断書」**を取得する。
【感情的に加害児や相手の親へ直接怒鳴り込む】
・感情に任せて相手方に直接接触すると、「恐喝された」「名誉を傷つけられた」として**逆に相手から訴えられる法的リスク(クロス・クレーム)**が生じます。交渉は必ず「学校・教育委員会」や「弁護士」など第三者の窓口を通すのが鉄則です。

【実務コラム】学校側(担任)と向き合う際の秘訣

学校の担任教諭は「忙しさ」や「保身」から、最初の段階でトラブルを過小評価し、「遊びの延長」「双方に原因がある」として“見て見ぬふり”や“隠蔽”をしてしまうリスクが常に潜んでいます。

被害を最速で止め、学校側の「安全配慮義務違反」を防いで本気で動かせるかどうかも、保護者の実務的なアプローチに大きく左右されます。

① 「口頭」だけでなく「形(書面・メール・録音)」でやり取りする

連絡帳や電話だけでなく、明確な日時と事実関係を記したメールや書面(要望書)で相談を入れます。「いつ・どのような事実を伝えたか」が記録に残ることで、後から学校側が「聞いていなかった」「知らなかった」と言い逃れするのを防ぐことができます。

② 担任ひとりに抱え込ませず、「組織(管理職・委員会)」を巻き込む

前回の判例では、担任が一人でトラブルを抱え込み、校長や教頭に報告しなかったことで被害が拡大しました。

問題が改善しない場合は、「担任を飛ばして、校長・教頭などの管理職や、自治体の教育委員会(いじめ対策の窓口)に直接事実と証拠を提示する」ことが、学校という組織を合法的に、かつ最も素早く動かすための実務上の王道です。

親としての「客観視」が我が子を救う

我が子に関わることとなると、どうしても「うちの子は悪くない」「絶対に許せない」と感情が先立ちます。しかし、法的な紛争を最もスムーズに解決するのは、常に「客観的な証拠」と「冷静な事実認識」です。

加害の芽を早めに摘み取り、被害の兆候を証拠とともにしっかりと受け止める。この「客観的な親の関わり」こそが、我が子の人権と将来を守る最強の盾となるのです。

どうすれば自分の子が被害者、加害者にならないか。今回のような結果を回避するために親にできることは何だったのか。どのように子と接していれば良かったのか。

我が子が被害者・加害者になるのを防ぐ絶対唯一の不正解は、親が「関心を持たないこと」です。
平時から子の小さなSOSや言動の変化を見逃さないことが重要です。

監修/執筆
弁護士町田北斗

弁護士 町田北斗(東京弁護士会所属):YouTubeチャンネル「刑事裁判を科学する」運営
日々法廷に立つ現役の弁護士。法律の専門家としての知見を活かし、難解な刑事手続きや民事との違い、裁判官の思考回路などを一般向けに分かりやすく解説する「教養エンタメ」コンテンツを発信中。読者・視聴者の知的好奇心を刺激し、法学の面白さを広めることをライフワークとしている。

弁護士町田北斗をフォローする
国家賠償×裁判