【FC本部VS元加盟店のバトル】元加盟店に賠償金3億円が命じられたロジック

経営ビジネス×裁判

有名学習塾チェーンの看板をめぐり、本部と九州エリアの運営トップが真っ向から衝突した巨額訴訟。

「映像授業の売上はロイヤルティの対象外だ!」「いや、契約違反だ!」
「生徒数を水増しして報告していたじゃないか!」

今回は、フランチャイズビジネスの闇と、契約社会の厳しさが浮き彫りになった「商標権侵害行為差止等請求控訴事件」(令和8年5月14日判決)を科学します

事件名エリアフランチャイズ契約解除に伴う商標権侵害、商号等使用差止、ロイヤルティ等請求控訴事件
裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日令和8年5月14日
結果第一審の請求認容判決を維持(控訴棄却)
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事件の全容:本部 vs 九州エリアトップの全面戦争

  • 原告(訴えた側・被控訴人):有名学習塾チェーンのFC本部
  • 被告(訴えられた側・控訴人):九州エリアを担当する加盟店事業者
  • 原告は被告の契約違反を理由に加盟店契約を解除。
  • 被告が原告の学習塾名の使用を続けたため、原告が提訴

事の発端は、長年九州エリアで学習塾を展開してきた被告らに対し、原告(本部)が「重大な契約違反がいくつもある」としてフランチャイズ契約を解除したことです。

契約解除後も被告らが「学習塾」の商標や看板を使い続けたため、原告は商標の使用差止めや、未払いのロイヤルティ、巨額の損害賠償を求めて提訴しました。一方の被告側も「契約解除は無効だ!」と真っ向から反論し、ドロドロの法廷闘争へと発展したのです。

【図解】基本的な事実関係まとめ

項目事実関係の概要
事件の概要学習塾FC本部(原告)が、九州エリアの運営トップら(被告)に対し、重大な契約違反があったとしてフランチャイズ契約を解除。解除後も商標等を使い続けた被告らに対し、商標・商号の使用差止めや巨額の損害賠償等を求めた事案。
問題となった主な契約違反① 映像授業等の売上をロイヤルティ算定から除外(過少申告)
② 長期間にわたる意図的な「生徒数の水増し報告」
③ 別ブランドの個別指導塾や家庭教師事業の無断展開(競業避止義務違反)

原告(本部側)の主張と法的要件

原告は、以下の法的要件に基づき被告らの責任を追及しました。

  • 商標権侵害・不正競争: フランチャイズ契約の解除後も、被告らが「明光義塾」の標章や類似商号等を無断使用しているとして、商標法及び不正競争防止法等に基づく使用差止めや抹消を請求しました。
  • 債務不履行・不法行為: 被告らが意図的なロイヤルティの過少申告(映像授業等の売上除外)、生徒数の虚偽報告、及び競業避止義務違反(別ブランドの塾運営等)などの重大な契約違反を行ったと主張しました。
  • 損害賠償等: 上記違反に基づく未払ロイヤルティや、商標権侵害等による損害として、総額約16億円の賠償等を求めました。
用語解説【商標権
  • 商標権とは、自社の商品やサービスを他と区別するための「サービス名やロゴ」などを独占的に使える権利
  • 特許庁に登録することで発生し、原則10年間(更新可能)保護される。
  • 第三者が無断使用すれば、民事手続きとして損害賠償請求できるだけでなく、刑事罰も定められている。

本部 vs 九州エリアトップ:法廷での泥沼の主張対立

争点のポイント被告(九州エリア側)の主張原告(本部側)の主張・裁判所の認定
① 映像授業のロイヤルティ過少申告【本部の指導がないから対象外だ】
・映像授業等は本部からの情報提供や経営指導がないため、ロイヤルティ算定の対象にならない
・本部も対象外だと認識していたはずであり、悪意(意図的な隠蔽)はない
【明光義塾の授業である以上、対象だ】
・映像授業等も明光義塾の教室で提供される学習指導であり、当然ロイヤルティの対象になる(裁判所も同旨の認定)
・以前は計上していたのに途中から意図的に外しており、悪質な過少申告である
② 生徒数の虚偽報告(水増し)【ただの集計ミスであり、意図的ではない】
・グループ企業間の便宜的な取扱いに伴う集計ミスであり、意図的ではない
・生徒数を水増ししてもロイヤルティの支払いが増えるだけで得はなく、信頼関係を壊すような重大な違反ではない
【自社システムの宣伝に利用した悪質な水増しだ】
・長期間にわたり実際の生徒数より多く報告していた
・虚偽の人数で「在籍数1位(最優秀教室賞)」を3年連続で受賞し、自社システムの販売において宣伝効果を得ており、意図的かつ組織的である(裁判所も同旨の認定)
③ 別ブランドの塾や家庭教師の運営(競業避止義務違反)【別会社がやっている・家庭教師は契約違反ではない】
・別ブランドの塾(Vスタ)のウェブサイトに「個別指導」とあったのは誤記であり、実際はやっていない
・家庭教師事業は、個別指導の場所が家庭になっただけであり、契約違反ではない
【抜け道は許されない、明確な契約違反だ】
・ウェブサイトに指導方法を誤記するとは考え難い
・別塾の運営会社は被告と代表者が同じであり、実質的な競業避止義務違反である(裁判所も同旨の認定)
・家庭教師事業も、承認された「教室」以外での商標使用であり許されない
④ 支援システム費の不正使用【システム開発に使っただけで、不正ではない】
・支援システム費を使って教室運営管理システムを開発しただけであり、本部や他の加盟店に損害は与えていない
【他加盟店から集めた金で自社利益を得た】
・他の加盟店には費用を負担させながら、被告側(九州)は負担せず極めて不公平である
・加盟店の金で汎用システムを開発し、他塾に販売して利益を得ており、明光義塾全体の発展に反する(裁判所も同旨の認定)

裁判所のジャッジメント

控訴審および第一審の裁判所は、いずれもロイヤルティの過少申告や生徒数の虚偽報告などを「被控訴人(本部)に対する重大な背信行為であって、信頼関係を著しく破壊するもの」と認定し、本部による契約解除は適法であると判断しました。

結果として被告らには、商標や商号(「MKネットワーク」等の名前)の使用差止めに加え、未払いのロイヤルティや、競業避止義務違反・商標権侵害による損害賠償として、約3億4800万円もの巨額の支払いが命じられました。

暴かれた「3つの重大な裏切り」

本部が激怒し、裁判所も「信頼関係を著しく破壊する重大な契約違反」と認定した被告側の行為は、主に以下の3つです

① 映像授業の売上隠し(ロイヤルティの過少申告)

被告側は、平成27年頃から「映像授業」や「自習型講座」の売上を、本部へ支払うロイヤルティの計算から意図的に外していました。被告は「本部の指導を受けていない映像授業はロイヤルティの対象外だ」と主張しましたが、裁判所は「映像授業も教室で提供される学習指導の対価であり、当然ロイヤルティの対象になる」と一蹴しました。

② 意図的な「生徒数の水増し」

被告側は、長期間にわたって実際の生徒数よりも多い人数を本部に報告していました。被告側は「集計ミスだ」と言い訳をしましたが、裁判所は、水増しによって被告の教室が「在籍数1位」として最優秀教室賞を3年連続で受賞し、自社システムの宣伝効果を享受していた事実を指摘。「意図的かつ組織的な虚偽報告」と厳しく断罪しました

③ 本部に内緒で別の個別指導塾や家庭教師を展開(競業避止義務違反)

フランチャイズ契約では、ライバルとなる別の個別指導塾を勝手に運営してはいけないというルール(競業避止義務)がありました。しかし被告側は、関連会社を通じて「Vスタ」という塾で個別指導を行ったり、家庭教師事業を展開したりしていました。

なぜ賠償額は「約3.5億円」に膨れ上がったのか?

裁判所は被告らに対し、約3億4806万円という巨額の損害賠償を命じました。その最大の理由は、契約解除後も「明光義塾」の商標を無断使用し続けたことによる「限界利益の没収」です

商標法では、侵害者が得た利益(限界利益)をそのまま原告の損害と推定する強力なルールがあります。裁判所は、以下の厳しい計算でこの金額を弾き出しました。

  • 売上の認定: 令和3年と令和4年の被告の売上から、身内企業からの不透明な受託収入を除外し、約15億円を教室運営の売上として認定しました。
  • 経費の厳格なカット: 売上から差し引ける経費は、教室運営に「直接関連して追加的に必要となったもの」に限定されます。
  • 除外された経費: 役員報酬、無関係な展示会への出張費、不自然に高額なシステム利用料などは、経費として認められませんでした。
  • 利益の没収: 売上から経費を引いた限界利益は、2年間で約3億7027万円に上りました。

ここから、被告が原告に支払っていた一部の金員(約2221万円)を差し引いた金額が、最終的な賠償額です。
さらに、裁判所は親会社を含めたグループ全体の「共同不法行為」と認定し、連帯責任での支払いを命じました。看板の無断使用がいかに重い代償を伴うかを示す、強烈な実例です。

商標権侵害の損害の推定規定

商標権侵害の裁判では、被害者が「いくら損したか」を正確に証明するのは非常に困難です。そこで商標法は、立証のハードルを下げる「3つの損害推定規定」を設けています。

  1. 侵害者が売った数量 × 被害者の1個あたりの利益
  2. 侵害者が不当に得た利益を、そのまま被害者の損害とする
  3. 本来支払うべきライセンス料(使用料)相当額

この強力なルールにより、侵害者から反証されない限り、推定金額の賠償金を受け取ることができる。

【実務コラム】FC契約の光と影と防衛策

フランチャイズ(FC)契約は、本部のブランド力と成功ノウハウをそのまま活用できるため、未経験からでもスピーディーに起業・多店舗展開できるのが最大のメリットです。
しかし、その裏でトラブルも頻発しています。主な「もめるポイント」は以下の3点です。

  • 高額な違約金とロイヤリティ: 経営不振でも支払義務が続き、中途解約時には巨額の違約金が請求される。
  • 経営の自由度の低さ: マニュアル遵守が絶対であり、独自の工夫が契約違反とされる。
  • 競業避止トラブル 脱退後に同業種での営業が制限され、看板を使い続ければ商標法違反などで刑事事件化するリスクも。
    →最大のリスク。本部ともめて契約解除した場合、同種の営業ができない。これまで培った事業ノウハウが活用できないことになり致命傷となる。

【事前対策】 契約前の「法定開示書面」の徹底的な精査と、弁護士によるリーガルチェックが必須です。できれば税理士にもチェックしてもらうべき。本部の提示する甘い売上シミュレーションを鵜呑みにしてはいけません。

【FC加盟以外の選択肢】 「他人の看板」に依存しない方法も検討。

  1. 自社ブランドでの独立: 自由度は最高ですが、ゼロからの集客努力が必要。
  2. 事業承継(小規模M&A): 既存の店舗や顧客リストごと買い取り、実績ある状態でスタートする。
  3. ボランタリーチェーン加盟: FCよりも本部の統制が緩く、独立性を保ちながら共同仕入れなどのメリットを享受する。

ビジネスの目的とリスクを天秤にかけ、最適な手段を選びましょう。

監修/執筆
弁護士町田北斗

弁護士 町田北斗(東京弁護士会所属):YouTubeチャンネル「刑事裁判を科学する」運営
日々法廷に立つ現役の弁護士。法律の専門家としての知見を活かし、難解な刑事手続きや民事との違い、裁判官の思考回路などを一般向けに分かりやすく解説する「教養エンタメ」コンテンツを発信中。読者・視聴者の知的好奇心を刺激し、法学の面白さを広めることをライフワークとしている。

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